鋼材技術コラム
鋼材流通から見る“スクラップ”について
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スクラップの動向を知ると何が見えてくるか
スクラップは鉄鋼製品(鋼材)を製造する為の原料である。
電炉メーカーが主原料としているのは広く知られているが、実は高炉メーカーでも鉄鉱石価格の高騰や地球温暖化防止条約対策を理由に、スクラップは原料として使用されている。
鋼材の需要が高まった時、または発生スクラップが減少した時(ビル解体の減少、自動車産業を代表とする製造業の稼働低下など)に鉄スクラップの需給は引き締まる。逆に鋼材の動きが鈍い局面では、鉄スクラップの引取量も減少する。
需要の波は当然価格の波とも連動している。すなわちスクラップの需要・価格動向を知ることは、鋼材のトレンドを把握・理解することに繋がってくる。
そもそもスクラップとは何か
スクラップという言葉の起源は英語の【scrap】であり、[断片]や[切れ端]を意味する。鉄鋼業や金属加工業におけるスクラップとは、鉄鋼の生産時に発生する鉄くずや不要になった鉄鋼製品を回収して再利用した物のことを指す。
スクラップの種類は以下のように細かく分類されている。
炭素鋼スクラップ
- ヘビー:ギロチンシャー、ガス溶断、重機などでサイジングしたもの。等級⇒HS/H1/H2/H3/H4
- プレス:主として鋼板加工製品を母材にしてプレス機により圧縮成形した直方体状のもの。等級⇒A/B/C
- シュレッダー:主として鋼板加工製品を母材にしてシュレッダー機により破砕した後、磁気選別機で選別された鉄スクラップ。 等級⇒A/B
- 新断:鋼板加工製品を製造する際に発生する切りくず及び打ち抜きくず。等級⇒シュレッダー/プレスA/プレスB/バラA/バラB
- 鋼ダライ粉:ネジ、機械部品などを製作する際に発生する切削くず及び切り粉。 等級⇒A/B/プレス
銑スクラップ
- 故断:使用済み鋳物製品を細かく打ち砕いたブロック状のもの。等級⇒A/B
- 銑ダライ粉:鋳物製品を生産する際に発生する切削くず。等級⇒A/B
日本ではH2スクラップが流通量の最も多い品種であり、基準商品と考えられている。また鉄板や平鋼、構造用鋼、特殊鋼は上質スクラップに分類される“新断”の配合を高めることにより、製品自体の品質向上を図る傾向にある。

鋼材流通から見るスクラップ
鋼材相場において、原料であるスクラップの価格が与える影響は大きなものとなっている。
世界でも有数のスクラップ資源国である日本は海外輸出も盛んで、その数は中国や韓国、台湾などの東アジアに加え、ベトナムやバングラデシュ、マレーシアなどの東南アジアの国々など多岐にわたる。特にアジア市場では地理的な影響(アメリカなどのスクラップ資源国からは距離が離れている)もあり、日本のスクラップ輸出が大きな下支えとなっている。
一方、世界でトップクラスの鉄筋生産国であるトルコはスクラップの輸入も盛んで、その動向はスクラップ価格や需給バランスに大きな影響を与えている。
国内の鉄スクラップ市況は、東京製鐵のスクラップ購入価格が指標となっている。
その理由は、東京製鐵は国内最大手の電炉メーカーであり、スクラップ購入価格をオープンにしている為である。
関東鉄源協同組合が毎月行う公開入札における落札価格は、日本国内の鉄スクラップ価格の指標となるだけでなく、現在は東アジアを中心とした国際マーケットにおいても重要な指標価格の1つとなっている。
こういった背景からも、近年では為替レートの変動や海外情勢、急激な需要の増減が鋼材価格に大きく影響を及ぼす要因となっている。
まとめ
スクラップの今後の展望
近年では環境意識の高まりを背景にスクラップの需要は世界的に高まっている。
日本では、現在も鉄鋼製品(鋼材)の大半は高炉で製造されている。製鉄所のメインである高炉では鉄鉱石を原料としており、製造過程において大量のCO2を排出している。
しかし、スクラップを原料とする電炉では製造過程におけるCO2排出量が高炉に比べ約4分の1まで抑えられる。と言われている。
こういった要因を踏まえ、『カーボンニュートラル』の考えから大手高炉メーカーでは電炉へのシフトが進んできている。
国内粗鋼生産の大半を担う高炉メーカーの電炉シフトにより、スクラップの需要は今後一段と高まり、鉄鋼業界において再注目すべき物になると考えられる。